窓際に面した雰囲気のいい席は、本物のカップルに譲って、私と井上さんは隅の目立たないBOX席に座っていた。
楽しそうなカップルをしり目に、東京の夜景は、だんだん遠くなってる気がした。
いつもは、眺めてるとテンション上がる東京タワーが、急にショボく見える。
井上さんは、お酒が入って、さっきのため息を言葉にするようになった。
「くそ、ぶっ壊してやる!」
あんまり、お行儀いい方じゃないみたいだ。
「あのね、略奪婚でもする?人の道に外れない限り応援するよ」
私は、井上さんの愚痴を、はいはいと適当に聞き流す。
こんなことなら、ため息を呑み込んだままで、いてくれた方がよかったと思うな。
もっと、人目を気にして座らなきゃいけない席の方がよかったかな。
人の心を読んだのか、井上さんがちらっと私を見る。
「なあ、頭に来ないのか?あんたは、あんなやつにコケにされて」
「そりゃ、腹も立つけど、コケにされたとまでは思わないよ。彼が、別の人が好きになったんなら仕方ないことだし」
「どうしてそんなに冷静なんだよ。おかしいだろ。お前は、もっと怒れよ」
「う~ん」
そんなこと言われても怒れないよ。私、根はいい人だし。
自分がどう感じてるかなんて、心の中のぞく元気はない。
あったとしても、今は知りたくないし。


