「初めて来た時、言ってたこと。ここで、酔って話してたこと、本気だったんだね。
まだ、好きなのよね?諦められないんだよね?誰かさんのこと。
きつかったでしょ?本当は今でも、花嫁さん連れて逃げていきたかったんじゃないの」

彼は黙っていた。

婚約者だなんて、いくら形だけって言ったって、よっぽど好きじゃなきゃ、ここまでそのままにしておかないよ。

彼は、静かに言った。

「花澄?」


「真裕さん?だったら、私の気持ちも分かってくれるよね」
不思議と気持ちも落ち着いてる。


「花澄?何考えてる?」


大きく息をつく。

二度とこんな思いしたくないって思ったばかりなのに。


「振出しに戻ろう。この場所から始まって、起こったこと、あなたが言ったことすべて、みんな忘れてあげる。そして、私は、真裕とのことを、結婚前のいい思い出だったって言えるようにする」



「花澄?ちょっと待ってくれって」

「意気地なし!今度は、あなたが泣く番よ。
誤魔化さないで正面からぶつかって。
ずっと好きだった子を取り返してきなさいよ。対面なんて考えないで、潔く。男らしく。
ほら今行かないでどうするの。一生後悔なんかして欲しくない」


「早く気持ちの整理をつけないと、本当に手遅れになるのよ。
無理して私のことを好きになろうとしてたでしょ?
俺は、もう別に好きな人がいるって、周りの人に見せたかったんでしょ?」

「なに言ってるんだ、そんなのもう済んだことだ」

「私ね、結婚するなら私だけを好きになってくれる人がいい。私の望むことはただそれだけ」


それから、私は店の人を呼んだ。

「諦めるな。景気づけにシェフのおすすめコースにしよう。だけど、今日は割り勘でね」