「私えっと、なんて言っていいのか……」
何か言いたいの?
言いたいなら、聞いてあげる。
だから、そんなにじいっと、悲しげな眼で見つめたままでいないでって。
「そうだね。冗談みたいだね……痛すぎるか」
でも、思い出すとすぐに気分が沈むんだよね。よくわかるよ
「痛すぎるのは君もだろ?でも、一人じゃなくてよかったな」
でも、妙に連帯感が生まれた。
「そうね」
ふーっとまた大きなため息。
さっきから、彼のため息が多すぎるなと気になっていた。
「そっか。そうだよね。でっかいため息つきたくなるよね」
確かに痛すぎるもの。
笑ってもらうところで、まさかの切り返しだなんて。
「ため息なんか、たまたま出ただけだ」
井上君は、なかなかの意地っ張りだ。
「ほう、がんばって強がってるじゃん」
ポンと彼の腕を叩いてみる。
「君こそ、よく平気だよな。へらへら笑って……」
ぐぬぬぬって心の奥で叫び声がした。
冗談で切り返して、乗り切ろうと思ってるのに。
心の底から笑ってるわけじゃない。
そんなこと、同じ痛みを抱えてるなら、分かるはずでしょう?
ちょっと、マジに返さないでって。
アホ!大人の対応してよ!!
ほら、ごらん。思い出しちゃった。
ここだったんだよね。
西田のお嬢様に会う前のあいつ。すごく優しかった。
それなのに、どうしてこんなことに?
気分は、もうだめ。泥船……
沈んでいく、沈んでいく、ほうら、沈んでいく一方じゃないの。
二人とも気分が沈んでしまえば、立ち直れない。
もう一回、笑ってみる?
ひいっ……
エネルギー切れたみたい。
無理。ダメ。死にそう。
こんな時、笑えるか。もう。


