「何か、食べたいものある?」
帰り支度が済んで、オフィスから出て行くタイミングで彼がそう言って来た。
「これと言って、何も」
食事のことなんか、全く頭になかった私はそうんなふうに答える。
「じゃあ、適当に決めていい?」
「うん」
真裕は、タクシーを拾うと、ビルの最上階にあるレストランに連れて行った。
私達が、最初に食事をしたお店だった。
「思い出の場所ね?」
「確かに、忘れられない場所だ。君と出会ったとこだからな」
すごく不機嫌だった頃の真裕を思い出した。
「そうだね」思わず笑ってしまう。
出会った場所ってことを、意識して連れて来てくれたことは素直に嬉しい。
けど、真裕の顔からは、楽しそうな表情は読み取れない。
表情を読み取れないのは、相手に悟られないようにしてるのかな。
どっちにしても、よくない兆候かなと、ぼんやり思った。
楽しい話なら、顔に出ないわけがないもの。
「何、考えてたの?」
「いろいろとね。いい思い出についてかな」
「そっか」


