「そうだったんだ。悩む必要なんかなかったみたいね」
なんにも知らないというのは、恐ろしいことだ。
正直、井上真裕がどんな立場だったなんて考えたことない。
「花澄?」
久美子が心配してくれてた理由がよく分かった。
私は、彼に向かって行けるだけの、何のカードも持ってないんだ。
改めて、彼が社内でどれだけ気を使っているか思い知らされた。
ごめんねで済まさないで、一人一人に思い出を残して、まだこの会社で働きやすいように気を使ってるんだ。
水野さんが、うっとりした顔で言う。
「私も一度、便乗して、お食事連れてってもらいましたよ。
どこがいいって聞いてくれて、雑誌に載ってるような、オシャレなお店に連れて行ってもらって、好きなもの食べなさいって。すごく素敵なの」
当時のことを思い出して、嬉しそうに思い出に浸る水野さん。


