「辛かったら言わなくていいからね。まだ、言いづらかったら言わなくても……」
「いいのか?言わなくても。そんなふうに言うなら、言わないぞ」
「ん……いいよ。無理なんかしなくても」
「ほら、気になるんだろ?聞きたいなら、ちゃんと聞いてよ」
そうだね。すごく聞きたかったけど。今はできるなら避けて通りたいな。
「えっと、菜々ちゃんと別れて辛くないの?」
彼の体が、むくっと起き上がってすごく驚いた顔をした。
「なに言ってるの。別れるってなんだよ」
「彼女、このままだと結婚しちゃうよ」
しばらく、彼は呆然として私の顔を見つめていた。
彼の目はうつろで、私を見ているのに、何も取ら得てはいない様子だった。
いきなり私を抱きしめた。
「君ったら、どうしてそうなの?俺の心配するために聞きたかったの?」
「うん……」
「君って、どうしていつもそうなの?」
腕に力がこもって、ぎゅっと抱きしめられる。
自分のことで精一杯な感じだ。
私が、バカな質問したことで受けたショックにまで彼は気が付かない。
顔を近づけても、彼は、キスしようとはしなかった。
「付き合ってるってだけで、ダメージ大きかったのよ。婚約までしてたって。よっぽどじゃないの。本当に好きなんでしょう?今でも……」
「やっぱり、気にしてくれてたんだね。でも、違う。
そうじゃないんだ。花澄が思ってるような関係じゃないんだ。
俺たち、菜々とは従妹同士で、兄弟のように育ったんだ。だから婚約者って言っても、形だけだったんだ。早いうちからお互いに本当に好きな相手ができたら、いつでも婚約解消に応じようって決めてた」
「そうだったの」
「すぐに解消しなかったのは、いろいろ面倒なことが多かったから。本気で一緒になろうと思ってたわけじゃないよ」
「菜々ちゃんは?」
「菜々?あいつ、俺と結婚しろって言ったら、発狂すると思うぞ」
力なく首を横に振る。
「どういうこと?」
「家にいると、俺と菜々は、お互いにテレビやエアコンのリモコンを持ちたいタイプなんだ。だから、基本的にあいつとは、 棲み分けしてお互いにぶつからないようにしてる。
菜々と一緒で、俺もあいつと暮らせるのは、せいぜい半日だ」
「うん」


