「真裕さん、ごめん。本当に、あんなことになるとは思わなかった」
頭を下げて謝った。
私だって、真裕が同じことしてたら彼のように冷静ではいられないと思う。
「あんなことっていうのは、キスしてたこと?違う男と抱き合ってたこと」
やっぱり、怒ってるじゃないの……
「真裕さん……ちょっと待って」
やっぱり、青木君のこと私が好きだって疑ってるの?
「しかも、畳に押し倒されてたし。俺の角度では、君が嫌がってるのかどうか見えなかった」
「彼には、友達だから、出来ないって言ったの」
どんなに青木君が私のことを思ってくれても、彼には応えられない。
そのことをどうやって伝えたらいいのか、そのことばかり考えてしまった。
真裕さんが、嫌がってなかっただろうと疑うのは、そういう中途半端な行動をしからだ。
「それで?それなのに、どうして畳に抱き合って寝てたの?」
「お願い、真裕さん。落ち着いて。付き合ってないなら、君はまだフリーだよなって言われた。だから、自分にもチャンスがあるって」
「そうか。君は、今、誰とも付き合ってないんだ」
「だって、まだ付き合おうって言われてなかったから、はっきり言えなかっただけで……」
「そっか、それで都合のいいことが言えたんだ。だったら誰と付き合おうと自由だし、誰とくっ付いても自由だね。誰とキスしようと好きにすればいいよ」
私は、そうだねと言って頷いた。
「じゃあ、いっそのこと、あいつが好きなら付き合えばいい」
「本当にそうだと思う。青木君のような人を好きになればよかった。私もそう思う」
「勝手にしろよ」
「真裕さん?」
「なに?」
「私のこと、怒って許せないと思ってるなら、それは仕方がないことだと思う」
「仕方ないって、なんだよ」
彼は力なく言った。無理にでも、そんなふうに言わなければならないみたいに。
「さあ、どうするか分からないけど、そうなったら、もうあなたには関係ないことでしょう」
怒られたのは、私のせいだ。
真裕さんがそうやって感情をあらわにするのって珍しいって久美子が言ってたっけ。
だったら普段の彼には、こんなに怒ったりするのって、考えられないんだろうな。
「花澄?」
彼が、驚いた顔して私を見る。
「真裕さん?不快な気持ちにさせたのは、私のせいだから、いくらでも、土下座してでも謝るよ。でも、私のこと信用できないなら、ここを出てくよ」
怒ってる彼の顔の中に、何か別の感情があるような気がした。
「ごめん。俺が悪かった。言い過ぎた。だから、そんなこと言わないで」
謝ってる。
そんなふうに見えるけど、どこか彼の表情が腑に落ちなかった。
本気で好きだって、自覚する前はここまで真裕さんのこと気にならなかった。
でも、何かが違う。
何となくだけど、出て行くって聞いて彼がほっとしたんじゃないかって気がして。
「真裕さん。私、あなたが好きなの。ずっと一緒にいたい」
彼は、頷いた。
私は、彼を軽く抱きしめようとして、拒絶された。
「ごめん、俺が悪いって、ちゃんと分かってる。でも、今はちょっと無理」
顔が、近寄るなって表情に見える。
でも……
もう、怒ってないよね。どこか、ほっとしてるよね。


