「仕事が終わって帰ろうとしてた時だった。石田がまだオフィスに残ってたから、幹事会じゃないのかって聞いたんだ。そしたら、青木と花澄が二人で会ってるから、邪魔するなとか無茶なこと言いやがって。慌てて飛んできた」井上さんは言う。
「久美子がそんなこと言ってたの?」
「だから、君が自分から、あいつと二人きりで、会いに行ったんじゃないっていうのは分かってる」
「うん」
「俺の気持ちわかるか?俺があの場に行かなかったらどうなってた?」
あまり考えたくない。
でも、井上さんが来なかったら、青木君、最後にあんなことしなかったと思う。
「えっと、今、私の顔も見たくないほど、怒ってるよね?」
私だって、出来ればあんな姿見られたくなかった。
「何で、声出さなかったの?大きな声出せば、人が来ただろ?」
「ん、そうだね」
「君は、あの男になら何されてもいいって思ってるのか?」
「違う」
「じゃあ、何で抵抗しないんだ?」
「後のこと考えたの。店がどういう態度取るか分からなかったから。それに、青木君はそんなことしない」店で大きな声を出したら、店の人に襲われてると誤解され、通報されるかもしれない。
「彼のことよく知ってるんだな。あいつのこと好きだから?」
「違うって言ってるのに。やっぱり、どんなに話しても無駄なようね。今日は帰った方がよさそう」
「花澄?それは、ダメだよ」
「どうして?遠慮しないで、どう思ってるか、お願いだから、感じたこと言って」
油断して、あんなことになったのは私のせいだ。
「すごく怒ってるよ。でも、今は一緒にいるべきだ。だから、家に帰るなんてダメ。怒って君を追い返したりしたら、やつの思うつぼだろ?だから、相手の思うようになんか行動してやらない」
「どういうこと?」
「俺とケンカして、君を追い出したら、自分の家に帰るだろう?俺がやつなら、君の家の前で待ってる」
「まさか。わざとあんなことしたっていうの?」
「どうかな。俺の考えすぎかな。でも、ずっと欲しかったものなら、必死になるさ。やり方は違うけど、俺だってそうだ」
「井上さん、やっぱり怒ってるんだ……」
「怒ってる。でも、それだけじゃない。怒りだけじゃない。君に近づいたタイミングが遅ければ、俺が逆に締め出されたかもしれない」
「あの……いくら何でもそれは」
「あの男の事、本当に絞め殺してやろうかと思った」
「えっと……」
「驚いてるよ。自分がこんな風になるなんて」


