「えっと、青木君。心配かけてごめん。謝るから。ね、打ち合わせしよう」
彼の顔が、私の頬の、ほんの数センチのところにある。
彼が、私の首元を見て言う。
「跡、取れたね。この間のは、井上さんにつけられたんでしょう?」
「なんのこと?」
「花澄ちゃん、気が付いてたでしょ?彼のつけた跡のこと。場所教えてあげる。キスしていいかな。俺、そうしたら諦めつくかも」
「ん?」
キスって聞こえたけど。今の、聞き間違いじゃないよね。
彼は、ふうっと息を吹きかけた。
「何でいきなり知らないやつに、横から取られるかなあ。こんなことなら、まだ別れてないうちから君のこと奪えばよかった」
えっと。奪うって、穏やかじゃないよ。
どうして、そんなことになってるんだっけ?
逃げようと思ったけど、青木君の腕につかまって、彼の腕の中に戻された。
奪うって、何よ?まさか、ここで?
違うよね?ここ壁薄いし、ふすまで区切ってあるだけだし。
こんなとこで、何もしないよね?
個室なんか取るんじゃなかった。
「久美ちゃん、ひょこっと来るかも」
久美子ったら、何やってるの。遅いよ。
「久美は、俺の味方だから。仕事で来られないっていうのも嘘だよ。俺と二人きりだというと、花澄ちゃん来ないだろ?最初から、二人で会うつもりだった」
「そんな……」
どうやって、この状況から抜け出すわけ?


