「でも、あいつがいいんだろ」
「あいつって?」
逃げようとすると、逆に腕の力を強められる。
私は、無理に抵抗するのを止めた。
「しらばっくれるなよ。二日間ずっと一緒にいたんだろ?君たち、もう付き合ってるの?」
「付き合ってないと思う。彼にも、そう言われてないし」
私は首を振った。言われてないことを言っていいものか分からなかった。
「言われてない?何考えてるの、あの人」
勝手につき合ってるなんて言ったら、井上さんの機嫌を損ねると思ったんだけど。
余計にややこしいことになったみたい。
青木君が、腕ごとぎゅっとつかんで、私の体を自分の方に向ける。
「えっと、青木君が怒らなくても。ごめん、無理……この体勢いや、何とかして」
少し、彼との間に空間ができてるけど、これじゃ抱き合ってるように見える。
「ずっとこうしていれば、すぐになじむよ」
私は、起き上がるために体をねじる。
逆効果だった。
彼は、私が逃げないように腕をつかんで引き寄せる。
「誰とも付き合ってないなら、まだ花澄ちゃんフリーってことだよね?」
「えっと、フリーだと、何?……」
「あんな奴やめとけって。君の手の届くやつじゃない。久美子の言う通り。また泣かされるって」彼は、真面目に言う。
「青木君、分かったから。彼に聞いてみる。どういうつもりなのって……ちゃんと聞くから。この話は、それで終わりでいい?そうした、ちょっと、青木君?」
彼の胸にぴったりと押し付けられていた。
「何してたの?土曜日も日曜日も。彼、君のことこうして抱きしめた?」
もう……完全に捕まってる。離してったら。
彼の鼻がぶつかりそうになるほど近くにある。
「聞くまでもないだろ?相手は御曹司だぞ。君のこと本気だと思えないよ。ちゃんと大事にされてるの?」
「青木君、顔近いって!!お願い。やめて」
「だったら、どうしてそんなに不安な顔をしてるの」
感の鋭い同期も困ったものだ。


