彼がにじり寄ってくる。
どうしたの?私、あなたにそんなにひどいこと言ったの?
表情は硬いまま。

恐ろしすぎる。


「あの時君は、迎えに来たのがあいつだと勘違いしたんだ。タクシーに乗せたら、竜也って名前呼んで、抱きついてきた。心が凍り付いたよ。そのことは一生忘れない」


「ごめんなさい」全然覚えてません。


「悪いと思ったら、君からキスして」

彼に言われた通り、何度も重ねた唇にそっとキスをする。

キスしろって言ったから、キスしたのに、彼の機嫌は直らない。


「そのビスチェ、俺の目の前で外して」

えっと……
これ、拒否したら、ただじゃ済まなそうね。
でも、初めて見せるときは、もうちょっと照明が暗い方がいいな。


「分かってる。でも、お願い。後ろ向いてて」


彼が、意地悪そうに早くしろよって催促する。
「ダメ。ここぞというときに、俺は、別の男の名前呼ばれたんだぞ」


「ごめんなさい……」


「手伝ってやるから、早く脱げよ……」


思い切って、彼の胸に飛び込んだ。
パニエが邪魔近づいた気がしないけど、彼の胸に手を当てる。


「ごめんなさい……言い訳にしか聞こえないけど。
あの時、竜也に言われたの。
君のことは本当に好きじゃなかったって。菜々さんに対する気持ちと全然違うって、だから……あなたに慰めてほしくて」
彼の表情が、驚きに変わっていく。


「なに?あいつ、君にそんなこと言ったの?あいつそこまで阿保なのか」
竜也が人でなし認定される様が、彼の表情から読み取れる。


「辛かったの。誰かに話を聞いてほしくて」彼の腰に腕を回してすがり付く。
お願いだから、竜也が恋しくて口に出したんじゃないってわかって。

「悪かった。俺の方が誤解してたのか?」


「竜也の名前言ってたかもしれないけど、酔って罵ってたの。聞かれてたとは思わなかった。好きだから竜也の名前を呼んだわけじゃない」


「なんだ。そうだったのか」
彼は、力が抜けるように、バタンとベッドに倒れ込んで天井を見つめてる。

「あの時は、もやもやして君のことが分からいと思った。誤解だったんだね。もう、泣かせない。このままもう一度、君を抱くよ」