「丸山さん?」
いつの間にかメニューを押しのけて、身を乗り出してる彼。
まっすぐ、自分に向けられた視線にクラクラしそう。男前って、間近で見るとすごい迫力だ。
「はい」
「さっきから、顔の表情がころころ変わって、面白いんだけど。その顔。なにビビってんの?」
笑った顔が魅力的って言ったのは、取り下げよう。単に意地悪なだけだ。
「だって、料理におすすめワインなんて頼んだら……」
いくらになんのよ、バカ。
私は、まっすぐに彼を見つめて睨み返す。
「大丈夫だよ、あいつら好きなもん食べていいって言ってただろ?」
彼は、私の目の前で悪戯っぽく、小学生の男の子みたいに笑う。
メニューを閉じて人を呼ぶ井上さん。
「いいえ、好きなものとは言ってなかったですよ」
そこんとこすごく大事だと思うけど。
「そうだっけ、でも、いいよ、どうせ西田専務が払うんだから」
彼は、そう言ってまた、意味ありげに笑った。
さようでございますか。
私たちは、おいしいワインの話をすることなく、メインの肉料理が死ぬほどおいしいねと、話題にすることもなく黙々と食事をした。
料理は、最高においしかった。
一人で食べたら、もっとおいしかったと思う。
竜也と前に、この店に来た時は、値段を気にして、一品料理を一つだけ頼んで帰った。
コース料理おいしそうだけど、これを食べたら、俺ら、何日飯抜きになるんだ?って、冗談言って笑いあって。
それはそれで楽しかったな。


