今度こそ教室をあとにした私は、靴を履き替え、
校門へと向かう。




「おかえりなさいませ、お嬢様。」




黒いタキシードを身にまとった男が、


ゆっくりと頭を下げる。




その一連の動作でさえ、見とれてしまうほどの洗練されている。




吸い込まれそうな漆黒の髪をしたこの人は、


白崎 零(しらさき れい)。



今は私の執事だ。

基本的に寡黙で、

必要以上のことはあまり口にしない。


……この人も、私同様完全な人間ではない。



「お荷物、お持ち致します。」





「……迎えは必要ないと言った」


一連のことで少し気が立っていた私は、
私は目も合わせず、

体の向きもそのままでそう言った。





「ですが、旦那様が、

お嬢様を大変心配されております。」





「そのような心配は無用だ。
……第一、お前が居たとして何になると言うんだ」



私は、トゲを含んだ言い方で冷たく突き放した。





「……凛様のお側でお仕えする事は、あの方との約束でごさいます故」



そう小さく呟くと、

人目もはばからず私の前でひざまずく。




────あの方……?
零は私の父上を旦那様と呼ぶはず……、
とすると、あの方とは……






「……おい、それはもしや───」




『 きゃーー!あの執事恰好いい♡ 』

『いいなぁ、あの子。あんなことしてもらってー』

『 なにあれ!ヤバくない?!』




皆珍しそうにこちらを見ている。



「………………」




口々に言いたいことを言っている生徒達に



私はいたたまれなくなって、




「……いくぞ」



観念し、そういって歩き出した。



「はい」



零も、凛々しい態度をとると、


少し自嘲気味に微笑みながら、タキシードを整え直し、

騒ぐ女子達に軽く会釈すると、私の少しうしろ隣につき、歩き出した。