「……な、にを……」
状況が飲み込めずにいる私を差し置いて、
零は、立ち上がり、私のベッドに膝をついて私を見下ろす。
そのままゆっくりとネクタイに手をかけると、ジャケットを脱ぎ、白シャツ姿になる。
「……どうぞ」
そう言って、伏せ目がちな表情で私を見下ろす。
無防備になった零の首筋が視界に入ってしまう。
「……っ」
ほんの少しずつ収まりかけていた動悸が、
一気にぶり返し始める。
「……うぅっ」
薄くなりかけていた瞳の赤も、濃いく妖艶な輝きを放ち始め、禍禍しい呪印が右頬に刻まれていく。
私はとっさに自分の目を覆い、顔を逸らす。
額にはじわりと汗が滲んだ。
「なん、のつもりだ……っ」
「……お嬢様」
「……これも私の役目のうちにございます」
淡々と、感情のこもっていないような声で告げられる。
「……!!」
(私に身を捧げることが、役目……?)
「……お前っ、それがどういう意味を成すか、わかった上でそんなことを言っているのか?」
「……はい」
零は、直視する私からほんの一瞬だけ目をそらし、変わらない表情のまま答えた。
そうしている中でも私の中の吸血衝動は抑えが効かなくなり、呪印ともに露になった牙がゆっくりと剥かれる。
「……い、やだ……っ」
私はベッドの中で、必死にもがいた。
しかし、私が自我が保っていられたのはそこまでだった。
完全に目の光を失った私は、その瞳に赤い輝きと闇を湛えて、ベッドからゆっくりと上体を起こす。
そのまま零の肩を掴んで強く押し倒すと、妖艶な笑みを浮かべて零の顎をゆっくり持ち上げて、顔を近づける。
そしてゆったりとした動きでシャツに手を差し込み、首筋に舌を這わせていく。
「……っ」
零は少し苦しそうにして、小さく息を飲んだ。
私は構うこともなく、その白い肌に牙を突き立てた。
その瞬間、零の体が仰け反るようにして反応を示す。
「うっ……ぁ!」
零は痛みを噛み締めながら、反射的に顔を背ける。
私は、ただ衝動のままに、はしたない音を立てながら貪るように血を求め続けた……。

