「まさか、僕が知らないとでも思っているの?」


「…何のことですか」


「ホーラが『世界』の偵察用に、分身を創っていることくらい知ってるよ。ホーラと、僕のね」


誘うように笑ってから、彼は体を屈めて私に口づける。


「何だっけ、そう。『人間』が戦争を起こしかけたら、すぐにリセットするのは、僕を愛してくれてるからだよね?」

どうやらヘルメスさんにはお見通しらしい。

愛なんて私たちに存在するのかどうかさえ分からないというのに。

人間は愚鈍だが、感情豊かだ。

他をこよなく愛し、また憎みもする。

彼等のプラスの感情は好ましいものだ。


きっと私とヘルメスさんの感じているこの妙な胸の温かさを、人間なら、愛と呼ぶのだろう。


「ヘルメスさんには負けますよ。何でも分かってしまう。そうですきっと愛しているんでしょうね、私は、貴方を」


私の言葉を聞いた瞬間、ヘルメスさんは顔を綻ばせた。

キラキラと輝く目が『嬉しい!嬉しい!』と語っている。


「だって、嫌じゃないですか。分身と言えど、『世界』での私は所詮、人間なんですから、誰を愛するか分からないんですよ」


私はヘルメスさんしか愛せない。


そう結ぶと、後ろから彼が覆い被さるように抱き着いて来た。


「僕だってそうだよ──ホーラしか、愛せない。ホーラがいない世界なんて僕が壊してあげる。ホーラが僕を愛さない世界も、僕がホーラを愛さない世界も、全部全部──壊してあげるからね」



私の手から造り出された星が、また輝き始めた。


ヘルメスさんが、その蒼く光る星を撫でる。


「この世界でも愛し合ってるはずだよね─」


「ヘルメスさんは、すぐに私を見つけてくれそうですね」


どこにいても。


「勿論だよ」


良かった、と今さらながらホッとする。


「そう言ってくれることを願って、今回はこの星のヘルメスさんに、私の力を少し分けておいたのですがね─」