「やけに気にしてんじゃん。ここ最近。椋花もそう思うだろ?」
「…まぁ、思わなくはないけど。」
「名桜と一緒の仕事は面白いよ。でもそれだけ。それにさ。」
「ん?」

 拓実はきょとんとした表情を浮かべている。知春ははぁとまた息を吐き出して、口を開いた。

「…それに、だよ。もし今俺が名桜を好きだとして、そんなこと言えないじゃん。今の俺に、恋愛はできない。」
「まー確かに。お前、アイドルばりだよな、売れ方。」
「歌って踊ったりしないけど。」
「だけど、事務所だって当面許さないだろ。」
「わかんない。そんな話したことないし。」
「でもさ。」

 拓実は椋花をちらりと見て、すぐに知春に視線を戻した。

「高校生男子が恋愛禁止って悲しくね?」
「…どうなんだろう。そりゃデートとかできないけど、想うだけなら自由じゃん。」
「は、お前…まさか…。」
「え?」
「好きな人、いるの?」

 最後の問いは椋花だった。

「…あ、チャイム鳴った。」
「おい!誤魔化すなよ!」
「……。」

 名桜以外には、誰にも言っていない。自分に好きな人がいるということは。彼らは友達ではあるけれど、言うつもりもない。それは、信用していないからではなく、二人とは普通の高校生として過ごしたいからである。言ってしまえば、相手が相手だけにきっと気まずくなる。だから言えない。想う人がいることも、その人の名前も。