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電車を何本か乗り継ぎ、最終的にたどり着いた場所は海の見える小さな村だった。


見渡す限り山と草だらけ。


他には何にもない。


生まれも育ちも東京の工藤には見慣れない土地だ。



珍しさに周りを窺っていると、工藤などおかまいなしに一人歩いていく黒瀬の姿が目に映る。


おいおい、また勝手に…と心の中で突っ込みながら工藤は彼女のあとについていった。





本当に何もない小さな村だ。


補正されているものの歩道すらない細い車道の白線の外を歩く。


すぐ隣にある田んぼはそろそろ収穫時期を迎えるようで、元気な稲穂が風にざわざわと揺れていた。


田舎だ、ど田舎だ。


一体ここに何の用があるのだろう。


道沿いにしばらく歩いていると、彼女はある店で立ち止まり中に入っていった。



外から中を窺う。


そこは小さな花屋だった。


小さいながらに、色とりどり数多くの花が売られている。


品の言い小物に囲まれた店内で、黒瀬は笑顔の似合う若い店主の女性と一言二言言葉を交わすと、花を買って出てくる。




「気を付けてね、道分かる?」



「ハナさん心配しなくても大丈夫。もう何回来たと思ってるの?」



「お姉さんの心配はありがたく受け取っとくもんよ。…て、あら?」




黒瀬を追って出てきた店主の女性が工藤に気付いた。


目がくりくりとした黒瀬と真逆のタイプのその女性は、目をぱちくりさせて工藤を見る。


田舎には珍しい黒いスーツに身を包んだ、これまた珍しい上質なイケメンの登場に興味津々だ。




「ちょっとちょっと!!凪ちゃん!このイケメン誰よ!お姉さんに詳しく話してみなさい!!」


「知らない人」



「おい!!!」




不審者だと認識される前に、急いで自分の紹介と黒瀬との関係を簡単に説明する。



「なるほどねー、凪ちゃんの専属SPってわけか!あ、わたしは九重ハナって言います。凪ちゃんとは長い付き合いで―――」


「私先に行ってる」


「お、おい、ちょっ!黒瀬さーん!?っすいません、彼女が行っちゃうんで失礼します!」


「はいはーい!帰りにでも寄ってねー、気を付けて―!」



話の途中で黒瀬がまた勝手に歩き始めたので工藤は慌てて話を中断し、後を追った。


二人の後ろ姿を見送りながら、ハナはどこかホッとした表情を浮かべる。





「...よかったね誠さん。凪ちゃんには立派なナイトがついてるみたい。これで少しは安心して眠れるかしら...」





ハナのその呟きは、二人の耳に届く前に消えていった。