「先輩、図書館ってここにあるんですか?」

「白原さんはここにあるって言っていたけど……ここかな?」

静が図書室のドアを開けた。

「今日は人が多いですね……あなたはどんな本を探しているのですか?」

「クイックシルバーについて書かれている本を……」

「あちらの机にあります」

そう言った後美月は本を読み始める。

「誰かいたのかな?」

「あっ勝山さん!笑実ちゃんも!」

笑実は桃心の顔が少し赤いことが気になり、熱が無いか心配した。しかし、桃心の後ろにいる美理矢を見て察した。

美理矢は調べるのを諦め、四人でクイックシルバーや白旗のことについて調べることになる。

「昔は原因不明だから差別されたこともあったって……」

桃心は自分がもし当時に生まれ、差別に苦しみながら生きることになったら……と思うと恐ろしく、そして悲しいと思った。

「やっていいことと悪いことの区別はつかないのかな……?白旗で成敗してやりたいよ!」

差別していた人に怒りが湧いてくる。桃心はきっとその人たちはクイックシルバーよりも厄介な病気にかかっているに違いないと思った。

「桃心ちゃんみたいな人がいたら良かったのにね……」

「病気にかかっているからと処刑……殺意が湧いてくるな」

静は笑実がそんなことになったら……と思うと、許せなかった。

「でも、その当時に君たちが生きていたとして、同じことが言えた?」

美理矢のその言葉は、全員に突き刺さる。今と違う医療、世界の状況も違う、考え方もきっと変わるだろう。同じことを言えるかと聞かれると……

「今の考え方は、本人がその時に正しいと思ったこと。もしも……をずっと考えてたらキリが無い。それに、人をいじめることで仮初の平和を手に入れようとする奴なんてどの時代でも屑。あなたの親は、それも分からないくらい馬鹿だったけどね」

美月は過去を思い出し、憎しみを籠めて言った。言った後、自分はひどいことを言ってしまったと気付き、口を押さえた。美月は忌々しい過去のことになるとたまに意識を乗っ取られたかのような行動をしてしまう。

「あなたは僕の両親について何も知らないのに、何故そんなことを言うのですか?」

いつも穏やかな美理矢からは想像できない、冷たい声で言う。桃心はショックを受けた。

「知っているわよ!聞いたらあんたの親のイメージが崩れるくらいのことを!」

美月はあの二人の本性も、姿すら知らない美理矢に言われるのが嫌だった。過去を思い出した後は、気分が悪くなる。真っ黒な感情にのみ込まれそうになる。自分を落ち着かせるため、美月は図書室を出た。