部屋を出てから、どこを目指しているのか分からないまま歩いた。しばらくして美理矢君が、今日はありがとう、さようなら、と言って帰った。
とりあえず、自分の部屋に戻ろうと思った時、愛恩を見つけた。

「愛恩!」

私は駈け出した。

「桃心、どこ行ってたの?」

「影見さんっていう人から話を聞いてたの、あの……」

大事なところで詰まってしまう。愛恩が首をかしげた。


「ごめんね、わがまま言って。こんな状況になったら私がちゃんとしないといけないのに……」

「私こそごめん!桃心が責任重大なのに、私は普通の子で何も出来ないから……せめて桃心を守れるようにならないと、て思って……」

「愛恩は何も出来なくなんか無いよ!一緒にいてくれるだけでいいの!」

無理しなくていい。いつも通りにしてくれることで、追い詰められた世界でも生きていけるようになるんだ。

「……ありがとう」

愛恩の笑顔がやっと見れた。心のつっかえが一瞬で消えた感じだ。

「愛恩って自分の名前の由来とか聞いたことある?」

「無いよ」

「じゃあ、思い切って月虹部隊の皆に隊長命令で聞いてもらおう!」

おかしな隊長命令に二人で爆笑する。

「鸚緑さんとか墨礼とか絶対に文句言うよね」

少し落ち着いた愛恩がそう言った。でも、こういう命令もたまにはいいかもしれない。ずっと緊張状態だったら疲れちゃうし、名前の由来を聞くことで何か分かるかも知れない。
だって、名前は心を籠めて考えてくれた大切なものだから。