驚いて振り返れば、柚希は鼻に皺を寄せて苦しそうな表情をしていた


一気に力が抜けた僕は、そのままへたり込む


熱気で喉が焼ける


ただ息をするだけでも苦痛だった



『……僕らは……このまま死ぬの……?』


柚希からの返事は無い


恐怖に支配された僕は、蹲り、震える身体を抱きしめた


柚希が僕を包むように丸くなる



もう終わりだと、固く目を瞑ったその時……


部屋の中に立ち込めていたはずの熱気が冷気へと変わり、炎の音が消えた



パリーンと、何かが割れる音がして、恐る恐る顔を上げれば───


分厚い氷で覆われた炎を背に、悲痛な面持ちの少女が、部屋の中に佇んでいた



『え……』


そう声を漏らした僕に、彼女が顔を向ける


陶器のように白い肌に、暗黒色の長い髪の、凛々しい佇まいの少女


その菖蒲色の大きな瞳が、僕の姿を捉えた



『……あなたが王寺慎也ね?』


彼女の問いに、こくりと頷く


『その狗神は、あなたが使役しているの?』


僕を包んでいた柚希も、ゆっくりを顔を上げる


その顔は、今まで見たことがないような、敵意を剥き出しにした表情だった



『……僕に憑いているけれど、僕の大事な家族だよ』


震える声の僕に、彼女はそうと返すと、膝を折り、僕に目線を合わせた



『私は雛桜輝祈。

あなたの両親と、共に仕事をしていた者よ』