エレベーターの扉が開いた瞬間、私に何者かが抱きついてきた


〝何者かが〟と言っても、その正体は分かっているのだが



はぁ、と溜め息を吐いた後、暫く待ってみたが、それは一向に離れる気配が無い


「……柚希、そろそろ離して」


遂にしびれを切らして、そう言うと


「やだ!!

だって輝祈、〝コウコウ〟って言うやつに入ってから、全然来てくれないんだもん!!」


柚希はそう反論し、私はまた溜め息を吐いた



八重瀬柚希(ヤエセ ユズキ)


ふわふわとした栗色の髪に、透き通った、まるで宝石のような琥珀色の瞳


年齢よりも幼く見えるその顔と同様に、性格も子供っぽく愛嬌がある


……時にそれを武器にして、欲しい物を手に入れる事もあるが


まあ、そこを除けば、慎也と正反対とも言えるだろう



「……そういえば、そうだったわね」


「〝そういえば〟!?

輝祈にとって僕らって、そんな存在なの!?」


目に涙を溜め始めた柚希


……柚希を泣かせると面倒な事になる


「...柚希、泣かないで」


そう言っても尚、涙が溜まり続けている柚希


どうしたものか、と困りながら、眉間に皺を寄せて解決策を考えていると


「柚希、もう十分なんじゃないか?

そろそろ止めてあげないと、輝祈が可哀想だよ」


突如、今まで黙っていた慎也が口を開いた


「…………」


「柚希」


「...はーい」


そう言って渋々といった様子で、涙を拭った柚希


...おかしい


そんな簡単に、この柚希が諦めるのだろうか