不気味な暗がりにも、奇妙な音にも、恐ろしい噂にも臆する事無く


少女はどんどん、路地の奥へと足を進めてゆく



暫くすると、少し先に例の家が見えてきた


家の周りには、どこからともなく霧が立ち込めている


しかしその霧は、境界線でも引かれているかのように、周辺の家々には全くかかっていない


それどころかこの霧は、この路地を通った人間にしか見ることはできないのだ


路地を通らなければ、たとえどの方向から見たとしても、それが上空であっても



無論、そんなことを知っている者は、やはりこの世界に数人しか存在しないのだが



「…………」


黙々と足を進めていた少女が、家の前へ漸く辿り着き、ピタッ、と足を止めた


路地に入ってから、既に十五分程経過している


もう慣れたことなのだが、もう少し距離が短くならないものか、と少女は小さく溜め息を吐いた



ギギギ、とドアが軋む音を聞きながら、中に足を踏み入れる



そこは一見、ひっそりとした喫茶店のように、目の前に長いカウンターがある


しかしそこに、椅子は存在しない


理由は単純に、椅子を用意する必要が無いからだ


外装は、周辺の家々と溶け込ませるために、派手過ぎず、地味過ぎずで、そこらの一軒家と何ら変わりない


内装は、時々調査にやってくる、水道会社や電気会社の人間に怪しまれないように、というただの〝飾り〟でしかない


何故なら、この家の用途は…………


地下にあるのだから