茶色の葉を持つ樹木の下。
冷たい風に吹かれ、アルナは目を覚ました。
アルナの体にはところどころ傷がある。
「醜い」という言葉が適切で、良い気分で見ていられるものではなかった。
(いつになったら…終わるの…)
止まない暴力の嵐。
しかし、鳴り続ける心臓の音。
アルナは一日一日を嫌な気持ちで過ごさなければいけなかった。

暴力の嵐にみまわれる原因はアルナの容姿にあった。
白く色を持たない髪、ベージュ色の瞳。
茶色の髪や瞳を持つ人々が多いラウン王国の中では、とても目立つ外見だった。
白い容姿の原因は「アルビノ」という病気。
アルナが一生戦い続ける事になる病である。

茶色の葉を持つ樹木。
願いを叶えるとも言われている神木であった。
アルナは願った。
(私が平和に暮らせる日が来ますように…)
アルナはそれが叶わぬ願いだと知っていた。
それでも、願い続けた。
アルナは弱音を人前で吐くようなことはしなかった。
暴力を受け続け、暴言を吐かれ続けた。
しかし、弱音は吐かなかったのだ。



太陽が照りつけ、少し暑くなってきた日の事。
アルナは暴力を受けていた。
近隣に住む人でも、遠くから来た人でもなく、親にだ。
親に暴力を受けるのはよくある出来事だった。
しかし、暴力に耐えきれなくなったのか、アルナは家を飛び出し、走り続けた。
涙を流しながら、森の奥深くへと続く道とは呼べない道を走り続けた。