「私が愛するのは、クラビスさんだけ」
首に、手が回された。
どうして、か細い訴えがあった。
答えは言っている。これ以上ないほど。
こんなことをされているのに、未だに宰相さんから愛情を感じられるのは、手に力が入っていないからだった。
話すことは出来る。私がやめてと言えば、やめてくれる。それを願って、宰相さんは首を絞めない。
どうしてと言う彼こそが、自身の首を見えない何かで絞めているようだった。
人を泣くほど愛したからこそ、引けないんだ。
いつでも絞殺出来る形のまま、宰相さんは幾度めかのキスをする。
手の力は未だ入らず、むしろこのキスが息苦しい。吸うための空気を私の口からしか摂取出来ないかのように荒々しい。
「どこまでも優しい」
「どこまで優しいかな」
私を憎むことも殺すことも出来ない彼の最終手段。死ぬときはフィーナを抱くときだとの言葉を遂行しようとする。
「私のせいで死なないで下さいよ。ーーお願いですから」
「俺のために死ぬだけだ。君を抱き、抱きながら死に、君の目の前で死に顔をさらし、永遠に覚えてもらい、忘れることない思い出として、王の顔を見る度に、俺の死に顔を思い出し、何度もそんな顔をして」
泣いてくれ。
俺のためだけに泣いてくれ。
そこで初めて報われると言う彼は、ようやっと笑った。
喜びとは程遠い、別の笑顔。『もう、これしか分からない』と苦しみを無理やり笑顔に変えてしまった壊れた人の顔。
「やめてください。終わりましょう。ーー私のために死なないで」
二度、口にした。
そこで、鎖が切れる。
老朽化によるものではない。切れた部分から鎖は消えていき、私は自由になる。
動揺しながらも、とっさに私の体を引き寄せた宰相さんは、本能的に分かっていたのだろう。
ーー奪われる。
「貴様に、フィーナを渡してなるものか!」
部屋の入り口に向かって叫ぶ宰相さんとは裏腹に、余裕ある笑みを浮かべている彼こそが残酷であるとは言わずもがな。


