振り返ることが、躊躇われる。
このまま、飛び出していってしまえばいい。
「おにー、、ちゃん…どこ、、、いくの…?」
だけどー
『…葉月は、、どうなるんですか??』
『ああ…あれの行き先は決めてある。元々静の嫌がらせだ。お前に懐いていたようだから放っておいたが。』
『どこにー?』
『どうしてお前が心配する?お前と違って、あれは要らない人間だ。』
だけど。
振り返ると、葉月はお気に入りの人形と絵本を抱えたまま、大きな瞳で俺を見上げていた。
稲妻の光が、葉月の涙で濡れた頬を照らす。
「は…」
言い掛けた所で、葉月は裸足のままパタパタと俺に駆け寄って、脚に抱き付いた。
その拍子に、手にしていた人形も絵本も床に落ちる。
衝撃で開いた絵本には、いつかの少年と月が描かれていて、俺をじっと見ていた。
ー眠れない夜位は。
一緒にいようか。
「ここに、おいで。」
小さな身体を抱き上げて。
その髪を撫でると、葉月はその熱と重みを一気に俺に委ねる。
「ここには、光も、幸せも、ありはしないけど。」
掠れた声が、呟いたのは、懺悔。
俺はお前を幸せにはしてやれないけど。
ーせめて、夜が明けない位まで。
夜が、支配している間だけは、一緒に。
ーーーーーーfin