記憶にほとんどないけれど。
父に連れられて歩く時。
並んで、道を行った事はない。
隣にはならない。
どんなに幼くとも。
手を繋ぐ、なんてことは、絶対にない。
まず、父が先に歩いて、俺はその少し後を歩く。
主人に服従を誓う犬は、そうやって歩く。
それと同じように、俺も歩く。
ー認められたんだ。
くすぐったい様な感情。
初めての感覚。
長い廊下を歩く音。
父が人払いをした為に、響く音は二つのみ。
入ってはいけない、そう、昔から言われてきた部屋の内の一つが、父の書斎だった。
「入りなさい」
良いと言われても、一度として入ったことのない空間に、足を踏み入れるには相当な緊張が伴った。
「どうした?入りなさい。」
躊躇した俺を、先に入った父が、再び招く。
「ーはい。」
18にもなるのに。
俺はまだまだ子供なんだなと、思い知らされたような瞬間だった。
でも認められたんだ、と。
初めて、父と向き合えるようになったんだ、と。
幸せな勘違いをしていたから。
俺は、早く父に追い付きたいと、思っていた。
やがては右腕と言ってもらえるようになりたいと、なるものなんだと、望んでいた、思い込んでいた。


