抜き差しならない社長の事情 【完】


相原は飲み会で、ポツリと漏らしたことがある。


『いい女だったんだ、俺の奥さんは……』


紫月が幸田社長から聞いた話では、
相原は将来を嘱望された大手外資系の、やり手の営業マンだったらしい。


社内恋愛の末、結婚した愛妻家だったが、
その妻は若くして病気で亡くなったという……。


それが原因だったのかどうかはわからないが、
相原はその一流企業をあっさりと辞めた。


そのあと彼は自由人になり、
数年の間、国内外と当てもない旅を続け、

旅先の温泉で知り会った幸田社長に誘われて、
ハッピー印刷に来たということだった。



ハッピー印刷が倒産ではなく廃業で済んだのは、
実は、全て相原の手腕によるものだ。

幸田社長の意向に沿って、無理をすることなく少しづつ規模を小さくしていったのも、
辞めていった社員たちの再就職の世話も、
全てに相原が一役買っていたのである。


それは全て幸田社長のお見舞いに行って聞かされたことだった。

『こんなところにいるような男じゃないんだ、相原は』




「次の職場で、紫月にいい男が見つかるといいなぁ」

「そうですねぇ」 と笑ながら、


 ハッピー印刷の売却先であるKgを見つけたのも、

  もしかしたら相原課長かもしれないな…… 

と思っていた。