BGMは、恋心を綴った短歌。
その詠み方があまりに上手で、私たちをさも平然と夢の世界へ連れていこうとする。
敵が手強い。
「眠くなくなる方法ねぇかな~」
「自分でほっぺ叩けば?」
「痛いのはやだ」
「じゃあ一回騒いでみてよ」
「バカかお前は」
やだと言って口をとがらせたり、私の冗談に笑ったり、南の表情はコロコロ変わる。
素直だなあ。
「あ、しりとりしようぜ」
「はあ?」
唐突な提案に、眉を寄せた。
バカかお前は。
と、南の言葉を真似るところだった。
なんでしりとり?
「やろうぜ」
「なんで?」
「いいじゃん! なんか楽しいことすれば、眠気なんてなくなるだろうし」
う~ん、そういうもんかな?
ただ暇をつぶしたいだけじゃないの?
まあいいけど。
しりとりをする理由も言い訳も、別に最初から欲しかったわけじゃない。
南とふたりだけの時間が続くならいいよ。
くだらないことをしているだけで、心臓はうるさくかき乱される。
そのことを南は知らないんだろう。
今はまだ知らなくていい。
まだ、私だけのごほうびにしておく。
「じゃあ俺からな。りんご!」
「呉越同舟」
「は!? ふつうゴマとかゴリラだろ!」
「ふつうとか知らないしぃ~」
ドヤ顔で口笛を吹く真似をする。
南は物申したそうにしていたが、何かひらめいたのか、机の中から何かを出し、私と同じドヤ顔を見せつけてきた。
「辞書!? ずるい!」
「ずるくねぇし~」
南も口笛を吹く真似をした。
案外子どもっぽいんだな、南って。
クラスの四分の一が机に突っ伏して寝ているなか、私たちはしりとりを続けた。



