南とのデートは、一度きり。
あの、金曜日の放課後だけ。
でも、いいよね。
夢見るのは、乙女の仕事だ。
自分の部屋に戻り、時間を確認する。
午後4時。
まだ空は青く、茜色は姿を見せない。
時間は十分にある。私は鏡の前に立ち、改めて身だしなみをチェックする。
どうなんだろう。似合ってるのかな。舜ちゃんにほめられたし、きっと大丈夫……だよね?
晴ちゃんはどんな格好をして来るんだろう。
南の私服は、どんな感じなんだろう。
ふたつのヘアゴムを取った。
夏らしく髪をアップにして、さわやかにしてみよう。
髪をかきあげ、おだんごにする。花柄のリボンも付け、まさに女の子!という見た目になる。
「かわいいって、言ってくれるのかな……?」
妙に気合いを入れすぎて、自信がなくなってきた。
舜ちゃんは言ってくれたけど……。
たぶん、いや、絶対、南は「かわいい」と軽々しく言わない。
それどころかスルーされるかも。話す機会すらないかも。
そんな、はっきりしない微妙な距離感。
長いため息と同時に、携帯が震えた。
メールの着信の知らせだ。
送ってきた相手は、なぜか舜ちゃんだった。
《今度は俺と花火しような》
メールでもからかわなくてもいいわ!!
こっちは真剣に悩んでるっていうのに。
幼なじみ相手にナンパしてこなくてけっこう! 舜ちゃんと花火したい人は山ほどいるでしょうが!



