ちょうど先生が教室に入ってきたタイミングで、私も動揺を隠しながら席に着く。
HRが始まった。
「あ、宿題終わったんだ」
先生の話を聞き流しつつ、隣を一瞥する。
南はシャーペンを筆箱にしまっていた。宿題を完遂したようだ。
「ぎりぎりセーフ」
「よく間に合ったね」
南はチャームポイントの八重歯を覗かせながら、安堵の笑みをこぼす。
開かれたノートには、宿題分の問題がずらりと記されてあった。
けっこう量があったのに、朝のうちに終わらせたんだ。自分の力だけで。すごい。
「マッハで終わらせた」
「よかったね、終わって」
疲れを紛らわそうと小さく伸びをした南は、あくびを噛み殺し、私のほうを見つめ返す。
ビー玉みたいな純粋無垢な瞳。
奥まで澄んだ、こげ茶色。
思わず見惚れていると、 そのきれいな瞳がくしゃりと細められた。
“かわいい”じゃない、大人びた笑い方。
ドキドキする。
でも、さっきとは違う。
さっきよりずっと甘い音。
今朝飲んできたココアが、まだ喉元に残ってるのかな。
糖度の高い熱が、じわりじわり、胸の中で広がっていく。
けっして南にはバレてしまわないようにうつむいた。



