南の指、綺麗だな……。

南の声、優しいな……。



「……ここまでわかったか?」

「へ!? あ、う、うん!?」

「本当かあ?」



南から疑いの眼差しを送られる。

本当だよ、とこくこく首を上下に振った。


ちゃんと聞いてるよ。

一音だって聞き逃したくない。


私のために紡がれたその声を、愛さずにはいられないの。



「じゃ、説明続けるぞ? それでXは……」



イコールで止まった、中途半端な式。
その続きから、きれいな字が走っていく。


私と、南で、隣り合わせ。

ノートの上も、現実でも。


耳元に南の吐息がかかる。
ちょっとくすぐったい。

シャツから甘めな香りがした。
柔軟剤だろうか。その匂いも好きになる。


この距離感は、単なるクラスメイトに対してのもの? 本当に?



「――っていう感じなんだけど、わかった?」



私の顔を覗きこむ南に、私は思わず背中を反らせた。

あと数センチでキスできちゃいそうだった……!



「う……うん! あ、あり、ありがと」

「ならよかった。がんばれよ、バカ松井」

「ば、バカって……!」



頭の上に温もりが伝う。

南の大きな手が、私の頭をくしゃりと撫でた。



「おい! 結人、こっち来いよ!」



廊下から南を呼ぶ声が響いた。

南は返事をして、廊下へと行ってしまう。



触れられた感触が残ってる。

じわじわと内側に温もりが浸食していく。


反則! ぜーんぶ反則だよ、南!

イエローカード一枚じゃ済まされないよ!?


でも、退場にはさせたくなかったから何も言わなかった。私もずるいかもね。


結局、自主退場してしまったけれど。



「憧子ちゃん、かわい」

「かわいくなんてないよお……」



おだやかに一笑する晴ちゃんに、私の顔はいっそう火照る。

それでも「かわいいよ」とほめ続けられ、赤面を両手で覆い隠した。


テンパっちゃって、いちいち間抜けだったって、自分でもわかってる。

自分で自分のかわいさは見つけられっこない。



もう、勉強が手につかないよ。