ただいま、わたくし、悩んでいます。



「むむむ……わからない……」



ランチを終えた昼休み。

満腹でぼうっとしてくる時間帯に、めずらしく私の頭はフル回転。

手の甲をひねって眠気を追いやりながら、残業覚悟で思考回路を働かせる。



「あっ、わか……た、わけがなかった……!」

「どこが?」

「ぜーんぶ!」



わからん、わからん!

手と足をぴんと伸ばし、降参アピール。
白旗を上げます。全力で上げまーす!


正面にいる晴ちゃんから「がんばれ」とエールをもらえたので、もうちょっとがんばることにする。

白旗、一旦取り下げ!



今日は、金曜日。


でも今回の金曜日はあんまり嬉しくない。

来週に定期テストを控えているせいだ。


休憩時間を返上し、私と晴ちゃんで勉強会を開催してる。

前後の机をくっつけ、私は数学、晴ちゃんは古典の教科書とノートを開いている。



「今どこやってるの? この応用?」

「うん……。何をどうすればいいのかわからなくて」



もう一回、問題文を読み返してみる。

基礎はなんとなくわかる。何について問われているのかもわかる。

だけど応用になると、とたんにどうやって解けばいいのかわからなくなる。何と何を足して、何と何をかければいいのか。


白旗、上げ直そうかな……。



「なんだ、こんな問題もわかんねぇのか」



頭上から低音が降ってきた。

ドキッとして顔を上げると、係の仕事を終えて戻ってきた南がいた。

う、うわっ……!?
すぐうしろに南が!? 近っ!!



「教えてやろうか?」



最大限に稼働させていた頭が一瞬にして真っ白になる。

そんな私をよそに、南は自分の椅子を隣に持ってくる。


近いってば! 心臓を壊す気!?

しかも、教えてくれるの!?

これ、夢じゃないよね?
手の甲をひねって眠気覚まししたはずが、一周まわって寝ちゃった? なわけないよね。



「……よ、よろしくお願いします」

「おう」



夢見心地で頭を垂れる。

目を線にしてほほえむ南を、直視できなかった。


南は丁寧に問題の解き方を教えてくれた。

先生よりもわかりやすくて驚いちゃった。