南の話が右から左へ流れていく。
はずんだ声は耳心地がよく、鼓膜の奥に音として優しくなじんでいった。
私もいつもどおり振る舞いたいのにうまくいかない。
授業中の内緒話も、さっきの罰掃除も、特別な時間にはちがいなかったけれど、ここは学校じゃない。
いつもとはちがう。
何が起こってもおかしくない、ふたりきりの時間。
何か、ちょっとしたことでも起きてほしいって、実はちょっと期待しちゃってる。
「なあ松井、聞いてる?」
「き、聞いてるよ! うん、そうだよね。マグロ味のアイスなんて珍しいよね」
「なんだよマグロ味のアイスって。言ってねぇよ」
私にもわからないよ! マグロ味のアイスって何!? どんなアイスだよ!
南に呆れられちゃうよ……。
ため息をつく私を窺うように、南は視線を合わせてきた。
「だから、本当にいいのかって聞いてんだよ」
「……へ? な、何が?」
「本当に俺のわがままに付き合ってもらっていいのか……?」
私を射抜いていた視線が、自信なさげに下がっていく。
そんなこと気にしてたんだ。
甘味のことしか考えてないと思ってた。
様子がちがって見えた私を、心配してくれたんだろうな。
照れてるとか、ドキドキしてるとか、ちっとも気づいてない。
南は、優しくて、にぶいね。



