この恋、賞味期限切れ




“ちゃんと勉強しろよ!”



今の私を予知していたかのようなメッセージ。

その言葉をふきだしで囲んでいる。

そばには、犬なのか猫なのかわからないイラスト付き。


授業中に何してんだか。

あ、それは私も同じか。


舜ちゃんこそちゃんと勉強しなよ?

この前、職員室で、宇月舜也のサボり癖を治そうって話してたの聞いちゃったよ。


気をつけてよね、私の大切な幼なじみくん。



教科書の落書きを指先でなぞる。


そこに小さな紙飛行機が飛んできた。

もちろん出発先は、隣の席。


犯人の南は素知らぬふりをして、窓の外を眺めていた。


私が落書きを発見しているあいだに、紙飛行機を折ってたの?

この紙飛行機、左右非対称だね。

南の不器用さが出ちゃってるよ。


にやけを隠しながら、紙を開いた。



“やっぱ授業聞いてねぇじゃんか”



……え?

これって……。



濃い筆跡を二度、三度見返す。


南はこちらをいっこうに見ようとしない。

青々とした空に夢中になってる。



南。ねぇ、南。

こっち向いてよ。

今どんな顔しているの?



何も言わないなら、自惚れちゃうよ。


ちょっと拗ねたみたいにそっぽ向いて、私が見つめていたみたいに南も私を見ていてくれていたって。


南はわかりやすいから。

素直にそう受け取っちゃだめかな?


期待してもいい?



“南、スキ”



ノートの最後のページをちぎり、小さく書いた。

すぐに消しゴムで消す。

筆圧を強めにし、“南も聞いてないじゃん”と上書きする。


私は素直じゃないな。



上書きした紙を隣の席に置いたタイミングで、チャイムが響き渡った。


しまった。まったく授業を聞いてなかったし、ノートだって取っていない。

南のことを考えていたら二時間目が終わってしまった。



南がノートの切れ端の存在に気づいた。

どうか“スキ”には気づかないでいて。



今朝はココアを飲んできていないのに、じんわりとした甘さが胸に広がっているのはどうしてなんだろう。


キミのせいだね。