―――南 結人が、サッカー部をやめた。
そのうわさがちょっとした話題になったのは、高校二年生に進級したてのころのこと。
あれから早三ヶ月。
今日から衣替え。夏服に変わる。
「おはよ、南。今日は早いね」
肌の露出が多くなったことを気にしながら、隣の席を見やった。
窓際の席に座る、彼、南 結人。
おはよう、と眠気まじに返されたが、視線を合わせようとしない。
焦った様子でカバンからごそごそとノートと筆箱を取り出している。
「どうしたの?」
「いや、宿題忘れてさ。数学のやつ。やばくね」
「それはやばい」
どうりで今日は登校するのが早いと思った。
宿題を見せてもらおうとしないところは真面目だなあ、と変なところでポジティブ解釈しながら、チラリと南を眺める。
刈り上げられた、茶色い短髪。
白いシャツから伸びるたくましい腕。
爽やかさが昨日より増している気がする。
ちょっとかっこよすぎない?
急いで宿題に取りかかっているはずなのに、優雅に予習をしているふうに錯覚するのも、私以上に肌が白いのも、私がまだ寝惚け眼だからにちがいない。
「憧子ちゃん、おはよ」
無意識に見つめすぎていたところに、声をかけられ、背中がびくっとなった。
「お、おはよ、晴ちゃん!」
そばにいたのは、高校生になってからできた親友の幸村 晴。
晴ちゃん。
ふわふわとした雰囲気に、朝からいやされる。ウェーブがかった栗色のボブが、より雰囲気を優しくしている。
「昨日ブラウニー作ったんだけど、よかったらあとで食べる?」
「うわ~! 食べる食べる! ありがとう!」
不器用な私とちがって、晴ちゃんは手先が器用だ。
こうやってときどきお菓子を作ってくれる。晴ちゃんの作るスイーツはどれも絶品で、さながらプロ。
見た目も中身もかわいらしさ満天!
もちろん男子にモテモテ。
……なんだけど、晴ちゃん自身は無頓着というか、無自覚らしい。