視聴覚室に着くまで、宇月くんと目が合うことはなかった。

いやに長く感じた廊下を過ぎ、教室に入ると、



「じゃあ、また」



宇月くんはあっけなく同じクラスの女の子の元へ行ってしまった。


息苦しさはなくなり、呼吸するのが楽になったはずなのに、喪失感が拭えない。


委員会中、視界のはしに宇月くんの姿が入り込み、集中できなかった。

もどかしくてたまらない。



きっとこれが、まだ心から応援できずにいる、あたしの弱さ。




集まりが終わり、教室に戻ると、扉越しに笑い声が聞こえてきた。

扉から覗き見ると、教室には憧子ちゃんと南くんが残っていた。


今日は憧子ちゃんと一緒に帰る約束をしていた。あたしの委員会が終わるまでのあいだ、南くんと喋りながら待っていてくれたんだ。


ふたりとも楽しそう。

でも長く待たせちゃうのは申し訳ない。


扉を開けると、より鮮明にふたりの表情が見えた。



「憧子ちゃん、おまたせ」

「あ! 晴ちゃん!」

「おう、幸村。委員会おつかれ」

「憧子ちゃん待っててくれてありがとう」

「南でひまつぶししてたから全然いいよ」

「うわ、ひっでえ。わざわざ付き合ってやったってのに」



……あ、れ?


いつからあたしは、他人の気持ちに敏感になったんだろう。



「はは、ごめんごめん。南さまのおかげで待ち時間も楽しかったでございます」

「心こもってなくね?」

「こもってるよ! たっくさんこめた!」

「ほんとかぁ?」



南くんの笑い方。

さっき見た、宇月くんの心からの笑顔とそっくりだった。



まさか。

でも。

本当に?



もしかして、南くんは――。




どうしよう。

あたしは、どうしたらいい?


どの恋もむくわれてほしいけれど、手放しで応援できない。


どうしてあたしだけが知ってしまうの。

あたしはただ恋しているだけなのに。



関係図の中心で、あたしは固く目をつむった。