声をかけてくれた人こそ、宇月くんだった。


当時からちょっとチャラそうだった。


そういう男の子が苦手だったからついぎょっとしてしまい、すぐに反省する。

見ず知らずの、しかも受験のライバルのあたしを心配してくれたのに、あたしったらひどい反応を……。


ネガティブ思考に拍車がかかる。



『よかった、大丈夫そうだ』

『え、えっと、あの……』



うつむくあたしの顔を覗きこみ、彼はほっと安堵した。



『具合悪いのかなって思ったけど、ちがったみたい』

『し、心配かけてすみません……!!』

『あはは、いーよ。困ったときはお互い様。あ、でも、ここは「すみません」より「ありがとう」が聞きたいな』

『あ……ありがとうございます』



耳たぶを赤くして伝えると、彼は穏やかな笑みを浮かべた。

目元が細められ、目尻にしわが寄る。
垂れ下がった眉尻と、少し上がった口角。


こんなふうに笑う人なんだ……。


人を見た目で判断しちゃいけなかった。

第一印象は一瞬で塗り替えられた。



『うん、どういたしまして。同じ受験生だよな? 一緒に頑張ろうぜ』

『は、はい……!』

『俺、宇月舜也。もしお互い受かってたらまた会えると思うから、名前覚えといて』



そう言い残して、彼はひと足先に校舎に入っていった。


ウヅキ、シュンヤ。
宇月くん。

何度も脳内で復唱した。

けっして忘れてしまわないように。



気づいたら緊張はとけていた。


ひらりひらりと舞う桜の花びらを横目に、彼のあとを追うようにあたしも一歩踏み出した。