「……本当は、ずっと言わないつもりだった」
こげ茶色の瞳も、たしかに濡れていた。
そうっとまぶたが伏せられるにつれ、こげ茶色がうすく陰っていく。
「松井が俺のことなんか忘れて、誰かと幸せになったらいいのに、って、ずっと思ってた」
「そんなこと……!」
「でも」
絶対にありえないと続けようとしたが、少し荒々しさのある口調に阻まれる。
もどかしさを募らせ、南の表情筋を強ばっていく。
「心のどこかで、そんなのいやだ! って思ってる自分がいた」
肌は冷えているのに、その一言だけで、どうしようもなく熱くなる。
やさしい苦しみに焦がれてしまう。
「本当はさ、俺が幸せにしたいよ。だけど……できないんだ」
「……ぇ、」
とたんに苦しみから逃げたくなる。
靴裏に力を入れて踏ん張った。
そばにいるって、実はすごくパワーがいるんだね。
「実は俺、病気を患ってるんだ」
「……ビョーキ……?」
覚悟してきた。
なんとなく察してた。
つもり、だった――だけだった。
いとも簡単に、口先だけの覚悟が砕け散る。
今、南の口から、はっきり、聞こえた。
真っ白な部屋が、一瞬にして、真っ黒に映った。



