この恋、賞味期限切れ



わざと南の言葉を遮った。

また「南」と呟く。


私の潤んだ瞳がベッドから横に移った。

それに気づき、南は息を呑み、涙袋を震わせる。


無機質な高音が、耳鳴りのように響いていた。



「なんでこんなところにいるの? なんでベットの脇に、そんな、よくわからない機械があるの?」

「…………」

「なんで……っ」



南の居場所が病院と知ったとき、心臓が止まったかのような感覚だった。


つと思い出したのは、あの、金曜日。
図書室掃除をしていたときのこと。



『俺、ビョーキなんだよね』

『え……?』

『一人になると死んじゃうビョーキ』



前世がウサギだって、冗談めかしてた。

ふざけてると思った。


もしかしたら……。
そう考えてしまったのも本当で。

まさか、と受け流し、なかったことにした。


でも、南は。

ひどい熱中症なんかじゃなくて、本当は……。



この病室に入る前に、それなりに覚悟はしてきたつもりだった。

だけどいざ真っ白な世界を目の当たりにすると、心臓がぎゅっと締め付けられる。


あと戻りはできない。

しない、と決めてる。



上半身を起こし、南は切なげにうつむく。

ベッドの横に置かれた、名前のわからない複雑な機械。それにつながった線と、南の腕。


ドラマや漫画で見かけるような世界。

未だに現実味がなく、私だけがふわふわしてる。


――ピッピッピッ。


規則的に音を鳴らす機械が、私の心拍数を跳ね上がらせていった。




「ねぇ、南……教えてよ。全部、教えて」




キミのことをなんにも知らなかった。


“サッカー部の爽やかくん”で、かっこよくて。

しわを増やして温もりを抱える笑い方が、とってもかわいくて。


いとおしいと感じてしまうところしか知り得ない。



私が見てきた
私に見せてきた

“南 結人”だけが、私の全てだった。


もうそれだけじゃ足りないの。



「私、何も知らなかったけど、南のことを好きになった。きっと、全てを知ったら、もっと南を好きになる」




怖くないと言ったら嘘になる。

それでもこの言葉は、思いは、嘘じゃない。


踏みとどまってはいられない。


私、ここまで来たよ。