「どうして先生、こんなこと頼むのかなぁ……」
放課後。
解放感でいっぱいになるはずの時間なのに、あたしの腕の中にはまだお仕事が山積みになっている。
授業が終わった気がしないよ……。
どの部活にも所属していないあたしが、帰宅しようと教室を出たとき。
待ちかまえていたかのように、担任が雑用を頼んできたのだ。
たまたま教室に残っていたのがあたし一人だけだったのが敗因。
山のように多い資料を、資料室まで運ぶように。
だってさ。
少し重たいけど、持てない量ではない。
放課後に用事がなかったし、先生が困っていたからつい承諾しちゃったんだよね……。
だけど本音は……あたしだって早く帰りたい。
――ツルッ。
「わわっ!」
突然、足がすべった。
そういえば、先週、廊下にワックスをかけてばっかりだったっけ!?
ドテンッ! としりもちをついてしまった。
持っていたプリントが廊下に散らばる。
「あちゃ~……」
やっちゃった。
あたしのドジ。おしり痛いし、ツイてない。
「大丈夫?」
落ち込みながら一枚一枚集めていると、頭上から低い声が降った。
こ、この声……!?
まさかと思いつつ顔を上げれば、やっぱり。
宇月くんが、いた。
「え、あ、う……」
「手伝うよ」
びっくり。
信じられない。
おしりの痛みなんかもうどこかへ吹っ飛んでいった。
面食らうあたしに優しく笑いかけ、宇月くんはプリントを集めるのを手伝ってくれた。
『――あいつ意外と優しいんだよ? チャラいけど』
昼休みに憧子ちゃんがそう言っていた。
でもね。
あたしも知ってたよ。
ずっと前……桜が咲いていたあのころから。