「……はぁ、」



何度、らしくなく叫んだことだろう。

のどが痛み出してきたころ、先生はとうとうため息を吐いた。


深く垂らしていたあたしの頭に、ぽんぽん、と重みが乗る。

それを合図に頭を上げると、先生は困ったように目を細めていた。



「お前らには参ったよ」

「先生……! それじゃあ……!」

「センセー、サンキュー!」



途中から宇月くんも一緒にお願いしてくれた。ふたりの熱意に、先生は根負けしたのだ。


これでやっと、憧子ちゃんの背中を押すことができる。


憧子ちゃん、待ってて。
今、伝えに行くから。


放課後カフェに行こうって約束していたけれど、それはまた今度にしよう。スイーツはいつでも食べに行ける。


大事なのは、憧子ちゃんが笑顔になること。

スイーツよりも何億倍も甘くなる応援がしたい。



あたしはそっと静かに、ある錠に鍵を差し込んだ。

カチャリ――。

どこかで鍵が開く音が聴こえた気がした。


錠が壊れ、複雑な関係がひらけていく。

はっきりと見えるのは……つながった、一本の赤い糸。




「南の居場所は――」




その赤い糸の先には、甘さも苦さも全て知り、恋を抱えるふたりの姿。

流した涙で濡れても、その色は褪せずに深まっていた。