優しい、なんて……。
今のあたしには縁のない言葉。
あたしは自分勝手で、臆病で、ずるい人間だ。
悲劇ぶった弱さを、“やさしさ”だと思い込んでるんだよ。
「こんなきつく握り締めてちゃダメだろ? ほら、爪のあとがついてる」
「……あたし、は、」
「幸村さんがあいつのために自分自身を傷つけるほうが、よっぽど意味がねぇよ」
大きくて、温かい。
宇月くんの手のひらに、やるせなさも苛立ちも吸い込まれていく。
「ありがとな。あいつと親友でいてくれて。こんなにもあいつのことを思ってくれて。……憧子は、幸せ者だな」
ちがうよ。
褒められるようなこと、何もしていない。
ただ悔しかっただけで。
もどかしかっただけで。
そんな優しい言葉をかけられることなんて……何も、何ひとつ、していないのに。
本当は宇月くんのほうが、ずっと、憧子ちゃんのことを想っている。
あたしの何倍も優しくて、本物の優しさを持っていて、特別を守り続けようとする人。
なのに。
なんで……。
あたしにそんな表情、見せないで。
柔らかくて、穏やかな、その笑顔。
いつもならどれだけ欲しがっても、本当の笑顔を見せてはくれない。
本音を隠して、嘘の笑顔を繕っている。
どうして、今、ずっと独り占めしたかった笑顔を向けてくれるの?
憧子ちゃんのことを話していたから?
……あぁ、どうしよう。
また想いが積もって、積もって、大きくなっていく。



