この恋、賞味期限切れ





放課後。


解放感いっぱいになるはずの時間が、妙に切なくて。

オレンジ色の空が、目にしみる。



……あぁ、また、無意識に。


窓のほう見てしまっていることに気づいて、肩を落とした。

これで何度目だろう。英語の授業からだから……丸一日ずっと? 何十回目あたり?



ほんと、重症。

私のほうが、よっぽど。




「ねぇ、憧子ちゃん」

「ん? なあに、晴ちゃん」

「帰り、甘いケーキでも食べに行かない?」



帰りの支度をしていると、晴ちゃんがおずおずと寄り道に誘ってくれた。


わかりやすい作り笑顔。

これが単なる寄り道じゃないこと、すぐにわかった。


晴ちゃんなりに元気づけようとしてくれてるんだよね? 甘いものを食べて、ちょっとでも幸せな気分に。



「……うん、行こ。行きたい」

「! うん、よかった……。駅前にね、新しいカフェがオープンしたんだって。そこのモンブランがすっごくおいしいらしいよ」

「モンブランか〜! もう秋だもんね。いいな、食べてみたいな」



作られた笑顔がだんだんと本物になっていく。

つられて私も自然と笑顔になれた。


晴ちゃん、ありがとう。
私のために気遣ってくれて。

晴ちゃんがいてくれてよかった。



「じゃあ今から……」




――ピーンポーンパーンポーン。


「風紀委員の方へ連絡です。これから緊急集会を始めます。視聴覚室へ集まってください」




晴ちゃんの乗り気な声を遮る、軽快な機械音。

次いで放送された内容は、なんともタイミングの悪い。


風紀委員の一人である晴ちゃんも、言わずもがな呼び出しの対象で。

それはつまり……。



「……ご、ごめんね……憧子ちゃん」



そういうことになる。



「いいよいいよ。気にしないで」

「あ、あのさ……! よければ委員会が終わるまで、待っててくれないかな? あたし、どうしても憧子ちゃんとモンブラン食べたって!」

「晴ちゃん……。うん、私も食べたいって思ってた。暇つぶししながら待ってるね」

「ありがとう、憧子ちゃん! 急いで行って、急いで戻ってくるから!」



宣言通り、晴ちゃんは筆記用具を持ってダッシュで視聴覚室へ向かった。


急がなくてもいいのに。
モンブランは逃げやしないよ。



きっと。




カバンのチャックを閉め切った。教科書類は全部しまい込んだ。支度終わり。


視界を埋めるオレンジに引き寄せられ、また、空を眺めた。

なんてきれいなんだろう。


この空の下のどこかに、南はいるんだよね……。

当たり前のことなのに、なんでもどかしく感じるのかな。


ちっぽけな世界だったらすぐに見つけられた。

それこそ、机ふたつくっつけたような。


あの空は広くて、遠くて。

せまくて、近かった、齢十七の世界をあっけなく覆ってしまえる。


だからこんなにももどかしいんだ。きっとそうだ。