「憧子ちゃん!」
「憧子、大丈夫か!?」
救急車が去った30分後。
静けさの戻った保健室に、晴ちゃんと舜ちゃんが来てくれた。
走ってきてくれたのだろうか。晴ちゃんは肩で呼吸をしていて、舜ちゃんの前髪はぴょんと跳ねていた。
「私は、大丈夫だけど……」
だんだんと痛みが引いてきた。体も動かせる。
ちゃんと意識も回復したし、あとは……背中がまだちょっと痛む程度で、他はなんともない。
だけど……。
「どうしたの? 憧子ちゃん」
突然黙りこんだ私に、晴ちゃんは心配そうに眉を下げて尋ねてくる。
何を、なんて、話せばいい……?
現場に居合わせたわけでも、この目ではっきり見たわけではない。
聞こえてしまっただけ。
唯一わかることは、何かあったことくらい。
「……そういえば、あいつは?」
思い出したかのように舜ちゃんは室内を見渡した。
「あいつ?」
「お前を運んだ、あいつだよ」
「南くんのこと?」
「そう! そいつ!」
――『憧子……』
切なげに呼ぶ声が。
――『……、ごめん』
そっと触れた唇が。
――『だ、だいじょ……、っっ』
不穏げに響いた、あの音が。
一瞬にしてよみがえる。
涙腺がゆるんだのがわかった。
目頭に熱が帯び、思わずうつむく。
「南は……」
倒れた、って、先生が焦って……。
救急車に運ばれて……。
それから。
南は、どうなったの?
熱いのか冷たいのか判断つかなくなるほど、心も体も機能を鈍らせていた。