あぁ、もう。

どうしてくれるの。



――バタッ!


不意に廊下から何かが倒れた音が聞こえた。

……え? 何の音?



「大丈夫!? 南くん!」

「だ、だいじょ……、っっ」

「……大丈夫ではないでしょう……?」



「……南?」



先生のあわてた声が、保健室の扉を越えて届いた。

私は廊下に出ようとするが、体が思うように動かない。身体が軋むように痛む。


南が、どうしたの……?

教えて。

何があったの。



「救急車を呼んでください!」

「わかりました!」



聞こえてるだけで何もできない。

南が倒れたのに何も……。


私はこんなところで何をしているの。

ベッドで横になっている暇じゃないのに。


南の様子を見に行きたい。

あの金曜日のことを謝りたい。

キスした理由を聞きたい。


……全部、できないなんて。



約10分後、救急車が駆けつけた。


南、大丈夫かな……?


ベッドにいながらできることは、南を心配することくらい。なんて無力なんだろう。

切ない気持ちを抱きしめながら、「結人」と一度だけ名前で呼んでみた。

その囁きは、誰にも拾われることはない。



もしも、願いが叶うなら。

南。

また「憧子」って呼んで?