この恋、賞味期限切れ



こそばゆくて、暴れ回りたくて、痛くて、こっ恥ずかしくて。

自分の感情に振り回される。



「……あれ? 誰もいねぇじゃん」



南の独り言がいやによく聞こえた。

ビクリと体が強ばり、ドキリと心臓が縮まる。


……そ、そうだ!

また寝よう! 眠ってしまおう!

そうしたら南の顔を見ずに済む。


決心したが早いか、即座に作戦を実行。

むぎゅっと固く目を閉ざし、狸寝入りを始める。


カーテンが開いた。

み、南だ! 南が来ちゃったんだ……!

さらに鼓動が加速していく。


ど、どうしよう! 南が近づいてくるよ! 寝ているふりだってバレてない!?



「まだ寝てんのか……」



よっし! バレてない!!


ベッドのすぐ横に南の気配を感じる。

さらり、と前髪を撫でられた。


ち、近い……!!
み、南の、ゆ、指が触れ……っ!?


困惑している心境が顔に出ないように必死になって表情筋を凍らせる。


心臓の音が聞こえちゃいそうだよ……。


このまま眠りについてしまいたい。浅くたっていいから! 悪い夢を見せてもいいから!

今こそ意識を手放させて〜〜〜!!



「憧子……」



…………え?

今……なんて言ったの?


いつもは「松井」って呼んでいた。

名前を呼ばずに、お前、と示すことのほうが多かった。


でも、今……!

私のこと「憧子」って呼んだ?