この恋、賞味期限切れ




「松井!!」

「憧子!!」

「憧子ちゃん……!」



遠くからか、近くからか。
わからないけれど、聞こえる。

南と、舜ちゃんと、晴ちゃんの焦燥感のにじむ涙声が。


聴こえた。


返事をしなくちゃ。

負けちゃったよ。私は大丈夫だよ。
って、言おうとしているのに、なんでだろう。

唇がはくはくと空気をかすめるだけで、声が一切出てこない。


頷けない。発せられない。手すら動かせない。


痛くて、暑くて、苦しくて。

意識が遠のいていく。



「おい! 女子がひとり倒れたぞー!」

「誰か、保健室に……」



「俺が連れて行きます」



周囲がどよめいている。

そこにひときわ明朗とした声音が、ざわめきを裂いた。


連れて行くと言った、誰かは、私を軽々とお姫様抱っこする。

なんとか声を振り絞ろうと、喉を震わせた。



「だ、れ……?」

「……いいから、寝てろ」



この声を、知ってる。

この温もりも、優しさも。


……あぁ、そうか。


キミだったんだね。




安心感に包まれ、ゆっくりと意識を手放した。

空と同化したハチマキが、最後にうっすらと見えた。