――バンッ!

スタートの合図が、グラウンド中に鳴り響く。


せめて遠くからなら、応援してもいいよね。

たとえ私の声が届かなくても。



「行けえええ! 南いい! がんばっっってええええ!!」



今日は。
体育祭くらいは。

全力で「好き」でいたい。


トラックを颯爽と走る南の勇姿に、風を送りこむように腹の底から声を張り上げた。

ひとり、またひとり、南はライバルを追い抜いていく。


南……!
がんばれ! がんばって……!!


青チームの応援席はどんどん熱を高める。

盛り上がりに乗じて、南の速度が上がっていった。



「一位、青チーム!」



ゴールテープを切るとともに実況アナウンスが流れた。

青のハチマキをなびかせ、ガッツポーズしている南に、恍惚とした息がもれた。



「すごいね、南くん! 一位だよ!!」

「……うん……」

「憧子ちゃん! やったね!」

「うん……!」



南が一位で……ゴール……。


南は八重歯を覗かせ、目を線にして笑う。

喉奥の枯れた感覚。早鐘を打つ心臓。頭を揺らす激情。ひしめき合って、ときめきを止められない。



「やったね、南」



小さく、静かに想いを込め、自分にしか聞こえないような声量で、南に届きもしない言葉を贈った。


南、一位おめでとう。

サッカー部で鍛えられた実力かもね。圧倒的に速くて、終盤にかけてごぼう抜きにしてたところは特に鳥肌立った。


すごく……すっごく、かっこよかったよ!



今カメラを持っていないのが惜しい。

はっきり、ばっしり、かっこいい南コレクションをパチリと写真を撮ったのになあ。


ずっとずっと見ていられるように、思い出として残したかった。


太陽に負けないくらいきらきらと輝く、その笑顔を、一瞬たりとも見逃すまいと視界に焼き付けた。


両頬が火照っていく。

まぶしくて瞳をきゅっと細めた。