不整脈の音がクリアに聞こえた気がした。
「……ほ、ほんとう?」
「舜ちゃんとするわけないじゃん。夏休みに言ったとおり、私が好きなのは南だよ。ずっとずっと、南だけだよ」
信じていなかったわけじゃない。
疑っていなかったわけでもない。
好き“だった”とは、憧子ちゃんから一言も聞いていない。
どうしてあたしは、憧子ちゃんの想いをないがしろにしてしまっていたんだろう。
親友失格だね。
「でも……キス、されそうだったのは、ほんと」
本当は言わなくてもよかっただろうに、憧子ちゃんはわざわざ金曜日の真実を事細かに明かしてくれた。
親友失格なあたしを、憧子ちゃんはまだ親友だと思っているから……なんだろうな。
それなら、あたしも。
「金曜日、舜ちゃんに告白されたの。でも、断ったよ! もちろん晴ちゃんの好きな人だからっていう理由もあるけど、やっぱり私は南のことが好きだから……」
あたしも、受け止めるよ。
つらくない、わけじゃない。
わかりきっていた矢印の示す先を、こうして改めて聞くのは、エネルギーが大量に必要で、気を抜けばまた逃げ出してしまいそう。
でも。
つらいのは、あたしだけじゃない。
「舜ちゃんに告白されて……それでも言うのはおかしいかもしれかいけど、言わせてほしい」
「憧子ちゃん……?」
「晴ちゃんの恋を、応援したい! だめ……かな?」
晴れた空の下、視線が絡み合う。
わずかに揺れ惑う黒の瞳に、あたしの情けない表情がうっすら映っていた。