「よし。これで最後だな。ありがとな、幸村。助かった」
「ううん、あたしの不注意でぶつかっちゃったんだし、お礼はいいよ。……じゃあね、南くん」
「おう、またな」
南くんと別れたあと、教室に忘れてきたノートの存在を思い出した。
どうしよう。今からでも取りに行く? でも……。
まだ教室に二人が残ってるかもしれない。
今、顔を見るのは……正直、きつい。
……今日は帰ろう。ノートがなくても課題はできる。そう。大丈夫だ。大丈夫にするんだ。
家に帰って、湯船に浸かって。
そうして、ゆっくり考えよう。これからどうすればいいのかを。
「……大丈夫なんですかね」
「もうすぐ行われる体育祭には、やっぱり……?」
「そうなんですよ。参加しないほうがいいと言ったんですがね」
生徒玄関に向かうさなか、保健室から聞こえてきたのは、担任の先生と保健室の先生の会話だった。
「……え?」
保健室の扉が少しだけ開いていた。
すきま風が吹くように聞こえてきたのは、もはや不可抗力だった。
だとしても。
記憶に新しい名前が会話に飛び交い、あたしは目を見開き、愕然とした。
「……なに。どういうこと、なの……?」
先生たちの会話に耳を疑い、ただ立ち尽くした。
まただ。
また、あたしだけ、知ってしまう。
大切なことほど、あたしだけにのしかかる。
この複雑な関係を解く鍵も
唐突に知ってしまった真実も
……あたしは知りたくなどなかったのに。
知らなかったら、もっと気持ちが楽だったにちがいない。
肩にずしりと重みが積まれていく。鉛よりもずっと重い。
誰かの想いは、秘密は、あたしの恋心をもむしばんでいく。
どうしてよ、神様。
あたしの手から、幸せな熱情を、遠ざけようとしないで。



